2026年10月20日、首都圏の新築分譲マンションについて、一見すると反対方向の見出しが並びました。ロイターの記事は「9月の平均価格は2カ月連続下落」、朝日新聞の記事は「4〜9月の平均価格は初の1億円超」と報じています。ロイターの記事、朝日新聞の記事
結論からいえば、二つは矛盾していません。同じ不動産経済研究所の発表を、前者は9月単月の前年同月比、後者は4〜9月の6カ月累計の前年同期比で見ています。さらに、新築マンションの平均価格は「同じ住戸の値段がどう変わったか」ではなく、その期間に発売された住戸の価格構成で動きます。
二つの記事は、同じ市場を別の時間幅で切り取っている
| 報道の切り口 | 対象期間 | 平均価格 | 比較 | 発売戸数 |
|---|---|---|---|---|
| 「2カ月連続下落」 | 2026年9月の1カ月 | 9,552万円 | 前年9月比−4.1% | 1,142戸(同−40.1%) |
| 「初の1億円超」 | 2026年4〜9月の6カ月 | 1億1,494万円 | 前年同期比+21.1% | 8,601戸(同−6.0%) |
9月資料の「2カ月連続」は、8月と9月の平均価格がそれぞれ前年同月を下回ったという意味です。9月の価格が7月から2カ月続けて同じ割合で下がった、あるいは4〜9月全体が下落に転じたという意味ではありません。実際、9月平均の9,552万円は8月の9,770万円より2.2%低い一方、9月の東京23区だけを見ると前年同月比1.3%上昇の1億3,940万円でした。不動産経済研究所・2026年9月月次資料
一方の1億1,494万円は、4月から9月までに発売された8,601戸をまとめた平均です。年度上半期として初めて1億円を超え、前年同期比では21.1%上昇しました。対象地域はどちらも東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県で、対象地域の違いが原因ではありません。不動産経済研究所・2026年度上半期資料
7月の高額・大量供給が、6カ月平均を大きく押し上げた
半期の平均は、各月の平均を6で割った単純平均ではありません。各月の発売戸数を重みにした平均です。9月資料の月次推移から4〜9月を並べると、7月だけ平均価格と発売戸数がともに突出しています。不動産経済研究所・2026年8月修正版
| 月 | 発売戸数 | 戸当たり平均価格 |
|---|---|---|
| 4月 | 1,163戸 | 8,736万円 |
| 5月 | 1,447戸 | 1億660万円 |
| 6月 | 1,564戸 | 1億137万円 |
| 7月 | 2,145戸 | 1億6,493万円 |
| 8月 | 1,140戸 | 9,770万円 |
| 9月 | 1,142戸 | 9,552万円 |
表の発売戸数と平均価格を掛け合わせて合計し、8,601戸で割ると約1億1,494万円になり、公表された半期平均と一致します。7月は戸数の24.9%ですが、月次の丸め済み平均から概算した販売額では35.8%を占めます。8月と9月が1億円を割っても、7月の高い水準を含む6カ月平均は1億円を上回るのです。
これは平均値の特徴です。極端に高い住戸を含む大型物件が多く発売された月は、既存の物件が一斉に値上がりしなくても全体平均を押し上げます。逆に、手頃な地域や住戸タイプの供給比率が増えれば、個別物件が値下げしていなくても平均は下がります。
「市場全体の価格」と「今月売り出した商品の構成」は分けて読む
9月は東京23区の平均価格が1億3,940万円で前年同月比1.3%上昇した一方、神奈川県は6,819万円で30.8%下落しました。首都圏平均が4.1%下がった背景には、地域ごとの値動きに加え、どの地域で何戸発売されたかという構成の変化があります。9月の発売は神奈川県370戸、東京23区409戸で、神奈川県の比重も小さくありません。
半期では東京23区が1億7,925万円で34.7%上昇、千葉県が7,376万円で24.1%上昇しました。これに対し、神奈川県は1.6%下落、埼玉県は2.1%下落です。不動産経済研究所は、東京23区や外周エリアでの大規模高額住戸の新規供給と施工費の高騰を、半期平均を押し上げた要因に挙げています。
したがって、この平均価格だけでは、同じマンションの同じ広さ・階・向きの住戸が値上がりしたかは分かりません。継続的な相場を見るなら、地域を固定した㎡単価、価格帯別の戸数、中央値、同一物件の販売期や中古成約価格など、構成変化の影響を小さくした指標も合わせて確認する必要があります。
価格は高いままでも、販売の勢いは弱くなり得る
9月は発売戸数が前年同月比40.1%減の1,142戸、初月契約率は50.4%でした。好不調の目安とされる70%を大きく下回り、販売在庫は9月末に6,775戸と前年同月より896戸増えています。8月末からも165戸増え、4カ月連続の増加です。価格の見出しとは別に、購入者の動きと在庫には弱さが表れています。
半期で見ても発売戸数は前年同期比6.0%減の8,601戸、初月契約率は62.8%で、70%を下回るのは3年連続です。価格が過去最高だから販売も好調、あるいは単月平均が下がったから市場全体が値崩れした、と一つの数字だけで結論づけることはできません。
建設費や用地費が上がると、事業者は価格を下げにくくなります。同時に、高価格でも販売を見込める立地へ供給を絞れば、供給戸数が減って平均価格が上がることがあります。そこへ金利上昇で購入可能額が縮むと、高値と在庫増が同時に現れます。今回の数字は、上昇か下落かの二択より、供給制約と需要鈍化が併存する局面として読む方が実態に近いでしょう。
購入・売却判断では、期間・地域・指標をそろえる
購入を検討する人にとって、今回の「2カ月連続下落」は、希望物件が2カ月で4.1%安くなったことを意味しません。「初の1億円超」も、首都圏の一般的な新築住戸がすべて1億円を超えたという意味ではありません。どちらも、その期間に発売された住戸の平均です。
①時間幅をそろえる:単月の前年同月比、前月比、半期の前年同期比を混ぜない。
②地域をそろえる:首都圏全体、東京23区、都心6区、各県を分ける。
③価格の物差しをそろえる:戸当たり平均、㎡単価、中央値、価格帯別戸数を併記する。
④販売状況も見る:発売戸数、初月契約率、販売在庫を価格と別に確認する。
⑤個別判断は個別データで行う:同じ棟・面積・階・向き・販売期や、周辺の中古成約事例を比べる。
今回の2本の報道は、片方が正しく片方が間違っているのではありません。短期の発売構成では価格が弱含み、半年を通した高額供給では平均が最高値になった、という同じ市場の二つの断面です。見出しの方向より、何を、いつと比べ、何戸で平均した数字なのかを先に確認することが重要です。
