短期譲渡所得とは、土地や建物を売った年の1月1日時点で所有期間が5年以下のときの譲渡所得です。購入日から売却日までを単純に数えて5年ではありません。例えば2021年10月に取得したマンションは、2026年中に売ると1月1日時点では5年以下なので短期、2027年に売ると原則として長期になります。国税庁「短期譲渡所得の税額の計算」
短期譲渡の合計税率は、2026年分では所得税30%、復興特別所得税0.63%(30%×2.1%)、住民税9%の合計39.63%です。ただし税率を掛けるのは売却代金そのものではなく、売却代金から取得費・譲渡費用・使える特別控除を差し引いた課税譲渡所得です。自宅の3,000万円特別控除が使えれば、短期でも税額が大きく変わります。国税庁「マイホームを売ったときの特例」
この記事は個人が日本国内の土地・建物を売る一般的な場合を扱います。法人、棚卸資産としての販売、共有、非居住者、買換え、相続税の取得費加算、収用などは計算が変わります。個別の申告判断は、売買契約前に税理士または税務署へ確認してください。
5年判定は「売却年の1月1日」で行う
| 売却時期 | その年の1月1日時点 | 区分 |
|---|---|---|
| 2026年12月31日まで | 約4年2カ月 | 短期譲渡所得 |
| 2027年1月1日以後 | 約5年2カ月 | 長期譲渡所得 |
このため、カレンダー上で取得から5年を過ぎても、その年の売却は短期になることがあります。境目では契約日・引渡日と税務上の譲渡日の扱いも確認が必要です。「5周年を迎えたから長期」と自己判断せず、取得日と譲渡年を登記事項・契約書・引渡資料でそろえます。
相続や贈与で取得した不動産は、原則として被相続人や贈与者の取得時期を引き継ぎます。相続した日から5年を数えるわけではありません。取得費も以前の所有者の購入代金などを基に計算するため、古い契約書や領収書を探す意味があります。国税庁「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」
短期39.63%と長期20.315%は、利益に掛かる
| 区分 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 短期(5年以下) | 30% | 0.63% | 9% | 39.63% |
| 長期(5年超) | 15% | 0.315% | 5% | 20.315% |
計算式は「課税譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」です。給与所得とは分けて計算する申告分離課税で、給与が高いから短期譲渡の基本税率が累進的に上がるわけではありません。反対に、売却代金が高くても取得費と費用が大きければ、課税される利益は小さくなります。国税庁「長期譲渡所得の税額の計算」
課税譲渡所得1,000万円で特例がない例では、短期の税額は約396万3,000円、一般長期は約203万1,500円で、差は約193万1,500円です。この差だけを見ると待つ方が有利ですが、待つ間の金利・管理費・修繕積立金・固定資産税・賃料収入、価格変動、住み替え費用まで含めて比較する必要があります。
取得費は購入価格のままではない
取得費には、土地・建物の購入代金、購入時の仲介手数料、設備費・改良費などが含まれます。非業務用の登録免許税、不動産取得税、印紙税なども対象になり得ます。一方、建物部分は所有中の減価償却費相当額を差し引くため、「買値と同額で売れたから利益ゼロ」とは限りません。国税庁「取得費となるもの」
自己居住用など非業務用建物の減価償却費相当額は、原則として「建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」で計算します。鉄筋コンクリート造の償却率は0.015で、6カ月以上の端数は1年、6カ月未満は切り捨てます。土地は減価償却しません。土地・建物の価格区分や賃貸期間がある場合は計算を単純化できません。国税庁「建物の取得費の計算」
取得費が分からない場合は、売却代金の5%を概算取得費にできます。しかし8,000万円で売れば取得費は400万円にしかならず、実際の購入額を立証できる場合より課税利益が大きくなることがあります。売買契約書、精算書、仲介手数料・改良費の領収書、土地建物の内訳資料を、売却を決める前に集めます。国税庁「取得費が分からないとき」
譲渡費用は「売るために直接かかった費用」
| 区分 | 主な例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 対象になりやすい | 売却時の仲介手数料、売主負担の印紙税、測量費、売却のための取壊し費用・立退料 | 売るために直接必要 |
| 通常は対象外 | 修繕費、固定資産税、管理費、売却代金の取立費用 | 所有中の維持・管理など |
売却前のリフォームは、売るために行ったからといって自動的に譲渡費用になるわけではありません。資産価値を高める改良費として取得費に入るのか、通常の修繕・維持費なのか、売却に直接必要な費用なのかを、工事内容と領収書で区別します。国税庁「譲渡費用となるもの」
自宅の3,000万円控除は所有期間を問わない
一定のマイホームを売った場合は、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。課税譲渡所得が1,000万円なら、要件を満たして全額を控除できる場合は、短期39.63%と長期20.315%の差より先に税額が0円になります。短期だから対象外、という制度ではありません。
ただし、実際に住んでいたこと、以前の自宅なら住まなくなってからの期限、親子・夫婦など特別な関係者への売却ではないこと、近年に同じ特例を使っていないことなどの要件があります。新居の住宅ローン控除と適用年が競合する場合もあります。税額が0円でも、特例を使うには必要書類を付けた確定申告が必要です。国税庁「マイホームを売ったときの特例」
損失にも注意が必要です。土地・建物の譲渡損失は、まず他の土地・建物の譲渡所得から控除できますが、原則として給与所得や事業所得とは損益通算できません。一定のマイホームの譲渡損失を他所得と通算・繰越できる特例は長期譲渡が要件です。短期売却の損を給与から引ける、と見込まないようにします。国税庁「不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」
税率差だけで売却を1年延ばさない
長期へ変わるまで待つ価値は、「現在売った場合の短期税額-待って売った場合の長期税額」と、待つ間の全コスト・価格変動を同じ手取り基準で比べます。課税利益1,000万円を同額のまま保てるなら税率差は約193万円ですが、売値が下がれば節税額も変わり、ローン利息や保有費も増えます。
| 税金側 | 保有・市場側 | 生活・取引側 |
|---|---|---|
| 短期・長期の判定、取得費、譲渡費用、特別控除 | 金利、管理費、修繕積立金、固定資産税、賃料、価格変動 | 住み替え期限、空室期間、引渡条件、資金繰り |
自宅の3,000万円控除で課税利益が消える見込みなら、短期と長期の基本税率差は売却時期を決める主因ではなくなります。反対に、投資用・セカンドハウス・控除要件を外れる自宅で利益が大きいほど、1月1日の境目は重要です。まず二つの税額表を作り、その差を「待つための予算上限」として扱うと判断しやすくなります。
2027年以降の展望――名称は変わるが、一般税率の合計は変わらない
成立済みの2026年度税制改正により、2027年分から所得税額の1%に当たる防衛特別所得税が始まり、復興特別所得税は2.1%から1.1%へ下がります。二つの付加税は合計2.1%のため、一般的な短期譲渡の合計39.63%、一般長期の20.315%は変わりません。名称が増えることを、税負担が1%そのまま増える変更と誤解しないことが大切です。国税庁「所得税のしくみ」国税庁「防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし」
同じ改正では、極めて高い所得に対する最低負担の仕組みが2027年分から強化されます。基準所得金額の基準は3億3,000万円から1億6,500万円へ、比較計算の税率は22.5%から30%へ変わります。これは譲渡益のうち1億6,500万円超に単純に30%を追加する制度ではありませんが、多額の不動産譲渡益と他の所得が同じ年に重なる人は、通常の短期譲渡税だけで完結しない可能性があります。財務省「2026年度税制改正の大綱」
2026年10月21日時点で、短期・長期を分ける5年基準や所得税30%・住民税9%を近く廃止する成立済み改正は確認できません。ただし税制は毎年改正され、特例には適用期限があります。売却を翌年へ延ばす判断では、価格予測だけでなく、その年の国税庁案内と成立法令を更新して確認します。財務省「2026年度税制改正の大綱の概要」
売却前にそろえる8項目
1. 取得日と売却予定年の1月1日時点の所有期間。
2. 購入時の売買契約書、精算書、仲介手数料・税・改良費の領収書。
3. 土地と建物の取得価額の内訳、用途別の減価償却履歴。
4. 売却時の仲介手数料、印紙、測量・取壊しなどの見積り。
5. 自宅の3,000万円控除、買換え、相続などの特例要件と併用制限。
6. 今売る場合と長期へ変わってから売る場合の税引後手取り。
7. 待つ間のローン利息、管理費、修繕積立金、固定資産税、賃料と価格変動。
8. 翌年の確定申告と住民税まで残す現金。国税庁「2025年分譲渡所得の申告のしかた」
短期譲渡所得は「早く売ると必ず損」という制度ではなく、課税利益・自宅特例・保有コスト・市場価格を同じ時点の手取りへ直して比較するための一条件です。5年の境目だけを見て売り時を決めず、特例を適用した後の実額で判断してください。
